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シシリは風に吹かれながら自分の力を確認していた。彼は魔法の文言を呟いて、光を繰り出した。彼の周りにはあらゆる生命体が集まってきて、彼の光を求めていた。イオはその様子に満足を覚えている様子だったが、イノケとフェンケースは困惑していた。

彼らの中で最も実力があったのは魔法使いであるイオに他ならなかった。それでも彼は自分の実力を明かすことはなく、魔物を討伐するのをシシリに任せていた。これらの存在は現れたり消えたりするため、完全に消滅する可能性は低かった。

実際には魔王にある魔力の根源を絶たなければならなかったから、シシリが勇敢にも魔王を殺すほどの実力を持たなければならない。この世界においては魔法によって秩序が成されている時代がしばらく続いていたから、魔法使いの弟子として立ち向かうことは許されなかった。

「この後どうすれば良いですか?」

「君が思う通りにすればいいと思うよ。魚の力なんて大したことがないから、魔法と呼べるほどの代物でもないんだよ。この辺をうようよしている魔物というのは大概弱すぎる。私にとっては簡単な仕事なんだけど魔王の力を放出する場所は世界のどこかには必要なんだ。だから多少問題になっても放置しているくらいがいいのかな」

魔法使いの言葉にイノケとフェンケースが反応して「本当にそうでしょうか?」と尋ねた。魔物というものは悪しき存在として知られていたから、この世界を魔王が支配する上で重要な課題であった。

彼らはシシリの周辺から離れて彼が黒い影を暴いていく様子を目の当たりにしていた。イノケとフェンケースは右手を伸ばして「力を」「力よ」とそれぞれ呟いたが、わずかに光が臨むだけに終わった。シシリは「このままでは英雄にはなれない」と首を振ってイオの方を見た。

「英雄になりたいなら私のところに長く留まっていてはいけないよ。魔王はそれでも強大な存在だからね、君の実力が及ぶかどうかわからないけれど、時には弱いものが強いものに勝つという物語も悪くはないんじゃないかな? 私は魔王の手下としてしばらく生きてきたから、忠誠心はそれほどなくても感謝するべきところは十分にあるんだよ」

イオはそういうと木の杖を伸ばして、「そろそろ帰ろうか」と言った。彼の言葉に従っていくつかの存在がシシリのものとは別の種類の光に包まれて消えた。彼らは空を再び移動することになって、幾つもの山々を超えていった。その旅路が終了した時、彼らの真下には都市が広がっていた。

「私と君たちは今から、この下の都市に移動しようと思うけど大丈夫かな? 魔王とは全然関係がないけれど、しばらくここで生活しようと思うんだよ。私はどこにいても同じだけど、魔法を使える少年の居場所を作らないといけないからね」

イオはそう言って木の杖を下に向けた。彼らは都市の中の広場に降り立った。それを夜の中で何人かの住民に目撃された。円形の広場を歩いていた人々は彼らに一瞬興味を持った様子だったが、その後は目もくれずに再び自分の道へと戻っていった。

フェンケースは「どこに行けばいいですか?」とイオに尋ねた。彼はその言葉をやや震えるように告げていたが、イノケが「泊まるべき場所に泊めてください」と言ったので、宿に行くことになった。シシリは自分の右手に宿る力を握りしめるように感じていた。

宿に入ると一人の女主人がいて、適当に応対した。シシリはイノケとフェンケースに気を払いながら、自分の名前を名簿に書いた。彼らは部屋に案内されて三人で寝ることになった。イオはというと、自分の姿を小さくしてシシリについていっていた。

シシリはベッドに寝転んで窓の外に浮かんでいる月を眺めた。そして右肩にかかっていたイオに「本当はどれくらいの日が経ったんですか?」と尋ねた。イオは「精々三日くらいかな」と言って、その言葉にイノケとフェンケースがそれぞれ胸を撫で下ろした。

「僕たちは帰る手段を失っているんだと思うんですけど、どうやって生きていくための金を稼げば良いとかありますか? 街に出て人々の依頼を解決するようなことで大丈夫ですか?」

「まあその辺は適当にすればいいよ。まだまだ時間はあるし、多くの人間と会わなければならない。ここでも祭は割合頻繁に行われていると思うから、君たちが学ぶべきことがその辺であるんじゃないかな? 一人の女の子のために生きる英雄の物語を私は眺める程度の話だから」

イオはそういうと妖精のような姿でシシリのベッドの枕の上で横になった。シシリは「そこにいて大丈夫ですか?」と聞いたが特に反応はなかった。イノケとフェンケースは大分眠気に襲われていたようで、すぐにいびきをかいて寝始めた。

ベッドが四つほどあって二段のものが二つになっていた。シシリはイオの邪魔にならないようにと彼のいない二段目に移って、そこで目を瞑った。彼は自分たちが行ってきたことを思い返してなかなか眠りにつくことができなかった。