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空を飛び続けていた彼らは一度地上に降り立った。シシリは右手に力を込めて光を現した。そこで魚の幻影が現れて、イノケやフェンケースの間を泳ぐようにした。彼らはその様子に感動を覚えたようであったが、それ以外の不安を抱えて強張った。

「実践演習の必要があるから、シシリ君は魔物を殺せるか試してみるといい。空には結構な数の魔王のなんとかいうのがうようよしているから」

イオの言葉に従って、彼は天を見上げるようにした。そこにはコウモリのような姿をした生命体が浮かんでいた。シシリはそれに向かって「光の力によって溶けろ」と言った。すると天に浮かんでいた生命体に向かって彼の対珠から宇宙魚の影が現れて黒い影を飲み込んだ。

このようにして一つの魔物をシシリは殺した。イオは驚いた様子ではなかったが多少の関心を覚えていたようで、イノケやフェンケースもシシリに倣っては自分の球体に言葉をかけていたが、特別反応する様子はなかった。

「これで基本的には大丈夫なんだけど、君はまず都市へ行かなくちゃいけないはずだよね。弟子なんだから独り立ちする必要があるんだけど、まずは私についてくるというのも初めの一歩としては重要だと思うな。だから私の私との関係はしばらく継続してくれるとありがたい」

「わかりました」

シシリはそういうと魔法の文言を続けて口にした。すると彼の周囲には鳥が集まってきた。それから彼は光の力を使ってその鳥を留めるようにした。シシリ以外の少年はこれらのことを全く理解できずにいたが、イオは「そういうことかもね」と呟いた。

すると空の彼方から蛇のような細長い生命体が現れた。いわゆるイオのイオであったから、シシリに求めていた関係が見られた。

イノケは自分の球体を握りしめるようにして、「力を貸してください」と力を込めて口にした。すると彼の手の中の対珠が光り始めてイオのイオに対抗するように眩く輝き始めた。彼は驚いた表情を見せて「フェンケースもやれって」と勢いづけた。

イノケの言葉に倣ってフェンケースが魔法の文言を口にすると、再び対珠が光り始めた。イオはそれらの様子をシシリと共に眺めて満足したような口ぶりで「その調子」と微笑んだ。彼らは学校では学ぶことのなかった力を身につけ始めていた。

光の魚の力を身につけた三人と共にイオは平原へと飛び立った。そこには幾つもの魔物が蠢いていたが、それらをシシリは次々に殺していった。その度に影として飲み込まれた魔物は力を失うたびに金色の物質を落としていた。イノケとフェンケースはそれらを拾って自分のポケットに収めたが、イオは特に咎めることはなかった。

すると狼のような姿をした黒い影が現れて、彼らの前に立ちはだかった。ひどく鼻息を荒くした狼の姿をした生命体は暴れるようにして特にシシリら三人の前に威嚇していた。その様子にフェンケースは特に怯えていた。

「シシリ君、大丈夫? 君はいいけど僕たちはまだ全然弱いよ」

「大丈夫だって、光の力を使えばフェンケースにもできないことはないよ」

シシリはそういうと「魚よ力を貸してください」と口にして右手を伸ばした。彼の手のひらに吸い付くようにしていた対珠は光り始めて、その発光を影の方へと伸ばしていった。イオやイオのイオの面前にあって煌めくように燃えた炎が狼の影を包んでいった。

群れをなしているわけではなかったから、一頭の存在としてそれは平原においてその生涯を潰えた。シシリらはその死骸に集まって、地面に落としていった金色の物質を拾った。改まってイノケはそれをイオに見せて「これはなんというものですか?」と尋ねた。

「さっきから君たちが拾っているものは力の珠になる前のものだよ。魔物との関係は弱まってはいるけれど、十分に魔の影響が強いから気をつけた方がいい。君たちが魔族になることに興味があるなら話は別だけど、そうでもないなら捨てておいた方がいいんじゃないかな? そのうち誰か物好きが回収しにくるのが悔しいかもしれないけれど、私にとっては塵のようなものだから」

「師匠がそういうのであればそうしようと思います」

シシリはそう言ってイノケから物質を奪って地面に捨てた。淡く発光していたものは時間と共にその輝きを失っていって、ついには石のようになった。いわゆる魔石であるが、危険な兆候は見られていなかった。

「そんなことよりさ、君たち家族のことについては心配しないの? 私の時間と君たちの時間は相当違っているから。君たちは行方不明になっているはずなんだよね。ある時光の中に包まれて消えていった少年たち、学校関係者も探してはいるはずだよ」

「僕は行かなければならないところがあると信じているので大丈夫です」

最初にシシリがイオの言葉に応じた。イノケとフェンケースは不安そうな表情を浮かべて互いに見合わせるようにした。それから「大丈夫じゃないかもしれないです」と落ち込むようにした。彼らは右手に持っていた対珠を開いて、「でも俺たちも魔法使いになれるのかな」と呟いた。