「なぜかなんてわからないところに理由があるんだよ」

シシリは適当に答え、彼は彼女から顔を反らせた。アニサマの父親が寝ている場面を横目に通り過ぎて、彼は自分の布団に寝転んだ。自由な時間が始まろうとしている最中、アニサマはシシリの様子を眺めてはため息をついた。

「私は明日から行かなきゃいけないのに……」

その言葉を聞いていたシシリは若干ばかり気まずそうな表情をしたが、天井を見上げて誤魔化した。二人の間の問題ではないのであるからと言わんばかりに、不都合な会話を避けようと勤めていた。どこからともなく扉が開く音が聞こえ、再び閉ざされた。

このことは常に繰り返されていて、夜が深まるのを教えようとしていた。一人か二人の影が通り過ぎようとしている。それは人間によるものではなく、ただ影として現れたものである。百年以上前に出現したものではあるが、今となっては単なる背景と変わりなかった。

次の日になれば祭りが起こり、そこに行かなければならない。それはシシリとアニサマばかりではなくイノケも同じであった。彼らは学校の帰りに集まって、物語を始めるようなしきたりを三人で再現するものである。

「今日こそよくならなくちゃならないよな」

彼らの祭りの名を星醍祭といい、この祭りのために選ばれているものがアニサマであった。このために彼らは本日をもって別れなければならない。納得していない表情のアニサマと、シシリは状況を受け入れざるを得なかったという顔立ちであった。

帰り道を歩きながら学校での出来事を話しているのは三人だけであり、今日行われてきたことについて再び語り合う時間を持っていた。その中に出てくるのは三人の他には先生と二、三人の友人であるが、彼らとはさほど親しみがない様子である。

シシリは後ろを向いて後続の二人に手を広げた。

「だからどうすればアニサマと一緒に生きていけるか考えたいんだよ。それが僕にとっての英雄物語なんだから」

「シシリがそんなこと考えていてくれたなんて、ちょっと嬉しいかもしれない」

「お前が何を言っても変わらないものは変わらない。芋の料理の味わいみたいなものだよな」

最後のイノケの冗談に二人は顔を見合わせた。そこに風が流れて会話が止まった。彼らは橋の下まで歩いたところで立ち止まって、再び三人で集まり直した。それ以上の関係性を持たない理由を話し合って、今日の祭りにどのように対処すべきかを考えていた。

アニサマは何をしても仕方がないといったことを呟いて、イノケはそれに「うん、うん」と応じた。シシリは「それでもどうにかなるようになるのが物語ってものなんだよ」と言って、二人の間を開いた。

そのうちに日が暮れていくのを感じ取った彼らは橋の上を見つめていると複数人の同学年の生徒が歩いていく様子にどうしようもない錯覚に囚われ始めていた。実際にはどうすることもできるのであるが、彼らにとっての方法が通用する世界は案外小さいものである。

祭りの時がやってきて、佳境に入った段階ですでにアニサマはこの祭りのために取られていた。どこからも見られるような舞台の上に立ち上がっていた彼女は、一人の男の前にあって魔法を使われる目前であった。この魔法のために彼女は過ぎ去らなければならない。

「どうすればいいんだ」

シシリは呟いて、イノケもそれを眺めた。彼らの目の前に時間は過ぎていき、ついにその時が訪れようとしていた。しばらくして、アニサマは彼らの目の前から姿を消した。

「これにて完了です。皆様ご清聴ありがとうございました」

などと丁寧な口調で三人の男のうちの一人が口を開いた。彼は壇上に上がり直して、一度落ちかけたところで体を持ち直し、シシリの方へと視線を向けた。彼は熱心に見ている観客の一人といった様相であったから不思議はなかった。

時間はすでに夜を迎えていた。辺りに照らしていた火の光に鳥が集まっていて、その端の方にシシリがいた。彼はこのまま力尽きてしまいそうになっている。それは彼がアニサマへと魔力を集中させていたからである。それを察知されまいとイノケが協力していた。

彼らの計略は概ね成功を収めていたが、これ以上続けているとシシリが危険であった。鳥ばかりがいる空間において、鳥のふりをすることで場を治めているのが彼らであった。それでも人間であることを隠せない以上は普通の存在として、三人の男の目の前に立ち尽くさなければならない。

アニサマの父親が言葉をかけて祭りは終焉した。彼はこれで妻と娘を一旦失ったことになる。妻に関して言えば彼は他の女を娶るつもりであったし、シシリはしばらく彼と共に生活する予定があった。孤独ではないものの、多くの学生の間で彼らは幸福から遠ざかりつつあった。

シシリの右手側にも左手側にも多くの学校の生徒があって口々にアニサマのことを思い返していた。

「しかし綺麗な女の子だったよな、名前はなんて言ったっけ」

「そんなことよりも、これで何が良くなるんだろう?」

「でもそれを気にし始めたら全てが全て良くないってことになるぜ」

新しいこと

千年前から続いている噂がある。一つか二つの王国で戴冠を果たせば永遠に生きられるというものである。当然迷信と退けられてきた。なぜならばこの世界の王は人間ではない。

ここに戴冠を信じる少年シシリというものがある。

「俺は永遠に生きるようにならきゃなあ」

疑いの目を向ける少女アニサマもある。

「あなたにそれだけの実力があるかまず不安よね」

彼らは彼らのものではない場所にあって互いに向き合っていた。二人の視線が交錯する中で何を導き出そうというのか、永遠という時間について考える暇もなかった。

二人の居場所を求めるが如く、三人目の人物が現れる時を彼らは待っていただろうか。いずれにしても虐げられている時代の話に近かった。かつては奴隷のない地域でも、今ではすでに多くのものが取られている。

「呑気に話している場合ではないのだけど」

イノケという第三の少年が近づいて彼らの間に割って入った。掴みどころのない男であると彼らが感じていたからだろうか、言葉が交わされる様子は見られなかった。それでも彼らの間に問題が発生することはなく、会話は続けられた。

彼らは家にいたが他に入り込むものはなく、ガラスの間から流れてくる風を受けながら三人で止まっていた。何をするわけでもない時間がつないでいく。二人の家には何もなく、それはどちらかと言えばシシリとアニサマであった。

明日は学校へ行かなければならないと知りながら、彼らは同じ姿勢でくつろいでいる。それぞれがソファに座っているからであるが、特に心地良さそうにしているのはイノケである。これらが何をするわけでもなく、ただアニサマの両親が家に戻るまでの時間潰しに近かった。

「これからどうすればいいのか分からないけれど、でも俺は強くならなければならないし、そのうちには英雄になれるはずだから君たちも早いうちからよろしくしていたほうが良いよ」

シシリはそういうと彼らの間を外れて扉から家の外に出た。外には沢山の鳥が待ち望んでいた。これらを触るのが彼の日課であったが、二つばかりの鳥が逃げる以外はほとんど彼の存在を受け入れた。柱に手を触れながら右腕に鳥が乗る。

シシリは口をつけようと近づけたが、鳥はそれを拒んで回避した。「なんだよ」「それはお前に向けてのセリフだろ」

すぐに言葉を返したのはイノケであって、彼は覗き込むようにしていた。鳥は彼の周りにはあまり集まりたがらない様子で、家の奥に潜むようにしていたアニサマへと咆哮を向けた。とはいえ囀る程度のものである。この地に住んでいる鳥は竜と近縁であった。

風が流れていくのを二人は感じていた。残りの少女はそれを知らないまま時が過ぎていく。どこからともなく現れる影ばかりが伸びたり縮んだりしていく。それがこの世界の夕方の光景であった。仕入れるものはそれ以外にはないが、待ち続けているのは父親と母親の帰りであった。

しかしアニサマにはすでに母親はなく、農作業を続けているはずの父親の姿を見ることもない。疎遠になっていた親戚とは関係を発展する可能性は低く、通常が続けば彼らの世界にこれ以上の人間が現れるのは学校であった。学校へ行くのは週に三度ほどしかないため、彼らはむしろ優秀と先生と呼ばれる存在には映っていた。

「そろそろ帰ろうかな」とイノケは口にして、アニサマと共に生活していたシシリを後にした。シシリは空を眺めて永遠という時間の長さを感じ取ろうとしたが、そこには翼の大きな鳥が塊になって通過する様子しかなかった。水のように全てが押されていく。

「これからどうする? アニサマは明日になったら出かけなきゃいけないんでしょ」

「どうするもこうするもないよ。これまで通りに生きていけたらいいな」

二人の会話がこのあたりで途切れた時に少女の父親が帰ってきた。彼は特に何を口にするでもなく、二人の間に右手を通して「ただいま」という意味合いの挨拶をした。どこにでもいるわけではないが、父親として当然のことをしたまでだと言わんばかりに彼らの間を去った。

「どういう親父なんだよ」

「それが当たり前だから仕方ないよ」

その後夜を迎えて最後の食事の時間に料理を作るのはアニサマであった。彼女は下ごしらえを簡単に済ませると、今までと同じように料理を作り始めた。このまま時が流れれば三人で食卓に並んで食事を済ませるはずである。

「ご飯できたよ」

不規則な事態は発生せずに、英雄になりたいと言った少年は少女の作る食事を口に運んだ。彼は目を彼女の父親に向けたが機嫌が良さそうであるので、「明日からもよろしくお願いします」とわざとらしく言葉をかけた。

窓の外には夜が広がっていた。彼らはそれを見つめながら父親がソファに横になるのを背後にしていた。指定したように鳥が近づいている。嘴に啄んでいる木の枝に触れることができないままシシリはその鳥と戯れ、すぐにそれはいなくなった。

「そういえばいつから英雄になんてなりたいと願ったの?」

 

大体千文字を書き殴ったもの

初めなので個人的な駄文を書いていきます。特に思い残すことはないようにしていますが、段々と暖かくなってきたため聴いていたことと話していたことの差分が大きくあります。

自分の意見を口にする機会もないために、悩んでいることをここに吐き出そうという算段です。後ろから見ていたような景色の並びが最高に綺麗であったというように、自分の目では確認できないようなものこそが思考回路に入り込むんでしょうね。

何を言っているいるのかは自分でもよくわかっていません。それでも今は構わないと思います。書き込んでいるようなことだけが正義であると主張するようなレベルの違いです。皆さんの脳内に残るような文章を書きたい意図はありません。

あるところから生まれてきて、どこかへと消えていくようなものばかりが自分自身の興味の対象です。今日はよくないことばかり言葉にしているような気がしますが、とりあえず千文字くらいを目標にしたいと思います。

越えられない壁などないのだから、なぜなら消して了えば良い。そういう魔法がある世の中ならば理想的にことを運べるはずでした。

自分の悩みなどどうでも良いのですが、これから始まる連続の足音を運んでいるようなところへと行ってみたかったです。すなわち寸法などもないような流れがそこかしこを走り回っているので結局理想を達成するのには時間がかかりそうです。

自分の声を聞いたことなどない書状を何処かに送りつけるようなミッションがそこにはありました。文章など書けなくても良かったのですが、それでも泣いている暇も笑っている次元もありません。自供したい景色が綺麗に残されていました。

笑いを産みつける様相を呈してきたので低姿勢になって笑っています。今から始める物語のようなものを王国にして数えられたら理屈を抜きにしても良いものであると言える自信がありました。飢えるものも乾くものも同じ板の上に並べておくようなものです。

自分からは以上のことを排除しないように気をつけて生きていました。それで治るものもあれば治らずに捕まっているものもあるはずです。探せば見つかる程度のもののために修理しなければいけない斧が脳天に突き刺さっている感情でした。

すぐにも忘れてしまいたい言葉の数々が流れては失われていきます。それが私自身の生き方なので忘れ去られるのは当然と言えば当然なのでありますが、それでも記憶の片隅には留められておきたい願望が薄らと望んでいるようです。